ゆとりを取り戻そうとする。 この行動は、操船水域が制約されるとき操船者がとる操船行動の一般的図式と言えるが、このことは、切迫する危険に対して操船者の手の内に残されている時間余裕の多少が操船者に課される負荷(ストレス)の大きさと密接に関係していることを意味している。 この研究において定義しようとする環境ストレス値は、航行中の自船の周辺水域がどのように、また、どれほど制約され、そして、その制約状況がどれほど操船者に負荷を課すことになるかを、危険が顕在化するまでの時間余裕に着目して指標値化しようとするものである。 いま、大洋航行中のように操船水域に何の制約もなく自船の針路を中心に周辺いかなる方向に進航しようとも危険顕在への時間余裕が無限または十分にある場合は、そのような操船環境が操船者にもたらす環境ストレスは最小であり、一方、港内操船のように操船水域が護岸や防波堤によって航行の自由が制約されどの方向に進もうとも危険顕在までの時間余裕が少ない場合は、そのような操船環境が操船者にもたらす環境ストレスは大きいと考えられる。 このような概念に基づく環境ストレス値を指標にとると、操船者が通常感じる水域制約に伴う操船上の危険感をうまく表現することが可能となる。 環境ストレス値を具体的に求める手順は以下のとおりである。 ?自船の周辺に現針路を中心に±90°の範囲の操船水域を考える。 ?現針路を中心に±90°の範囲にわたり針路*φごとに、危険顕在(この場合は護岸など障害物への衝突)までの時間余裕を自船速力(V)と針路上の障害物までの距離(R)をもとに計算する。 ?各針路ごとに求めた危険顕在までの時間余裕に対し操船者がどのような危険感を抱くかについては、護岸への接近を模擬したビジュアル操船シミュレータ実験(2)を通じて求められた回帰式SJL=f(R/V、V)を用いて置換する。ただし、重回帰分析の結果、護岸への接近角度の影響は説明変数としての貢献度が低いので回帰式から省略している。 SJL=a(R/V)+bV+C(1) ただし、SJL:危険感 a、b、c:自船条件によって決まる回帰係数 R:護岸までの距離 V:自船速力 なお、SJLの値と操船者の感じる危険感との関係は以下のとおりである。
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